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長野地方裁判所松本支部 平成4年(ワ)40号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金三五八四万九四三〇円及び内金二〇六四万九四三〇円に対する昭和六一年七月二日から、内金一五二〇万円に対する昭和六一年八月二〇日から、各支払い済みまで年18.25%の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、信用金庫法に定める信用金庫である。原告は、昭和五八年八月二日、訴外株式会社松建住宅(以下「松建住宅」という。)との間で信用金庫取引契約を締結した。

2  被告は原告との間で、右同日、原告と松建住宅との間の、右信用金庫取引契約に基づく松建住宅の原告に対する債務につき、期間を昭和六一年九月三〇日までとし、金額を元本限度額金二億円及びこれに付帯する利息・損害金等とする限定連帯根保証契約を締結した(以下「本件保証契約」という。)。

3  原告は、松建住宅に対し、右信用金庫取引契約に基づき、昭和五九年四月二八日、次のとおり金員を貸し渡した(手形貸付)。

① 貸付金額 金五〇〇〇万円

② 返済期限

昭和六〇年九月三〇日

③ 貸付利率 年7.5%の割合

④ 遅延損害金

年18.25%の割合

4  更に、原告は松建住宅に対し、右信用金庫取引契約に基づき、昭和五九年一二月七日、次のとおり金員を貸し渡した(手形貸付)。

① 貸付金額 金七五〇〇万円

② 返済期限

昭和六〇年一一月三〇日

③ 貸付利率 年7.5%の割合

④ 遅延損害金

年18.25%の割合

5  原告は、松建住宅から、右第3項の貸付金につき、次のとおり弁済を受けた。

① 元金の返済分として、昭和五九年一一月二四日、金六五〇万円、昭和六〇年三月一五日金九四〇万円、合計一五九〇万円の弁済を受けた。

② 昭和五九年四月二八日から昭和六一年七月一五日までの間、一二回に亙り、各貸付残元金に対する昭和六一年七月一日までの利息・損害金の弁済を受けた。

③ 平成元年二月二七日、松建住宅所有不動産の競売事件(長野地方裁判所諏訪支部昭和六二年ケ第三六号事件)の配当金として、金一三四五万〇五七〇円の配当を受け、これを貸付残元金の内金の弁済に充当した(但し、右事件による原告に対する配当金は金一三四三万五一七五円であったが、原告の経理処理上、競売申立債権者たる原告に対する手続費用償還金四五万二八二五円の内金一万五三九五円を右配当金に加算して貸付残元金の内金の弁済に充当した。)。

6  原告は、松建住宅から、右第4項記載の貸付金につき、次のとおり弁済を受けた。

① 元金の内金弁済分として、昭和六一年七月一五日、金五九八〇万円の弁済を受けた。

② 昭和五九年一二月七日から昭和六二年六月二四日までの間、九回に亙り、各貸付残元金に対する昭和六一年八月一九日までの利息・損害金の弁済を受けた。

7  右弁済により、原告の松建住宅に対する貸付残元金は、前記第3項の貸付金につき金二〇六四万九四三〇円、前記第4項の貸付金につき金一五二〇万円の合計三五八四万九四三〇円となった。

8  よって、原告は、連帯保証人である被告に対し、右貸付残元金合計三五八四万九四三〇円及び内金二〇六四万九四三〇円に対する未払いとなっている昭和六一年七月二日から、内金一五二〇万円に対する未払いとなっている昭和六一年八月二〇日から、各支払い済みまで年18.25%の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3ないし7の事実は知らない。

三  抗弁

1  被告は、昭和五九年三月ころ、松建住宅が日本住販から不正な手段により融資を受けていたことを知り、原告に対し、原告の松建住宅に対する以後の貸金については保証しない旨を申し入れた。その後である、昭和五九年四月二八日及び同年一二月七日に、原告は松建住宅に対し、本件貸付をしたのであるから、被告には右債務を支払うべき義務はない。

2  担保保存義務違反

原告は、松建住宅が信用不安になった以後においても、債権の回収をはかることなく担保を解除しているのであって、担保保存義務に違反している。すなわち、

① 原告は、昭和五九年四月二八日付貸借につき、松本市大字筑摩字安太郎二九三七番一〇等の物件に五〇〇〇万円、同年一二月七日付貸借につき松本市渚一丁目九八番四等の物件に七五〇〇万円の各根抵当権の設定を受けている。

右五〇〇〇万円の根抵当権は第一順位であって、これにかかる物件は昭和六〇年三月五日、松建住宅から望月誠司に売却されている。これについて、右根抵当権に基づく回収の事実が認められない。

また、七五〇〇万円の根抵当権も第一順位であったところ、これにかかる物件は昭和六〇年八月三〇日、松建住宅から丸善土木株式会社に売却されている。しかし、この売却の際、右根抵当権に基づく回収の事実が認められない。

② 松建住宅は丸善土木株式会社に対し、昭和六〇年一一月一五日、松本市渚一丁目七三番一三号宅地353.71平方メートル、同所七二番六、宅地、15.12平方メートル及び鉄骨造四階建、延面積728.97平方メートルの建物を一億四〇〇〇万円で売り渡した。原告は、右土地に、昭和五八年八月三日、松建住宅を債務者とし、極度額を一億二〇〇〇万円とする根抵当権設定登記を経由した。原告は右売買に際し、八〇〇〇万円の弁済を受けられるべきところ、その回収を怠った。

3  信義則違反

被告は、松建住宅が原告から昭和五八年八月二日に借り入れた一億円及び翌日借り入れた一億八〇〇〇万円については、これに対し被告が松建住宅のために保証したと認識しているが、本件借入金については、被告の認識しえない貸借であり、これにつき被告に対し、限定根保証の責任を求めることは信義誠実の原則に反するものである。

4  免除

原告は、松建住宅に対し、昭和六一年六月、松建住宅の原告に対する残債務を免除した。

5  消滅時効

本件貸金の返済期日は、昭和六〇年九月三〇日ないし同年一一月三〇日であり、商事債権である本件貸金については、右返済期日から五年を経過したことにより消滅時効が完成している。被告はこれを援用する。仮に、競売等により時効の中断がなされたとしても、昭和六一年七月ころ、中断事由は終了しているから、いずれにしても消滅時効が完成している。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はいずれも否認する。

五  再抗弁

原告の松建住宅に対する五〇〇〇万円の貸付については、原告が競売事件の配当を受けたのは平成元年二月二七日であり、右配当期日までは時効は中断している。七五〇〇万円の貸付については、原告が松建住宅から最終の弁済を受けたのは昭和六二年六月二四日であり、右弁済によって、時効は中断されている。原告は、時効完成前である、平成四年二月二六日本件訴訟を提起した。従って、本件貸金についてはいずれも時効が完成していない。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は認める。

第三  裁判所の判断

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  証人西窪廣幸の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第三、第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一、二、第七号証によれば、請求原因3ないし7の事実が認められる。

三  (抗弁について)

1  抗弁1(本件保証契約の解約)について

前記認定のように、本件保証契約は、保証期間及び保証限度額に定めのあるものであり、このような保証契約においては、保証人である被告に解約権は認められないと解すべきである。なお、被告は、「昭和五九年三月ころ、松建住宅は日本住販から不正な手段により融資を受けていた。」と主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

2  抗弁2(担保保存義務違反)について

成立に争いのない甲第二号証の一によれば、本件保証契約において、原告には担保保存義務がないことが認められるから、原告に右義務があることを前提とする被告の主張は採用できない。なお、証人西窪の証言によれば、原告は、本件貸付等に際し、松建住宅から設定を受けた担保権につき、任意譲渡あるいは競売等により適正に債権の回収を図っていることが認められる。

3  抗弁3(信義則違反)について

被告は、「本件借入金については、被告の認識しえない貸借であり、これにつき被告に対し、限定根保証の責任を求めることは信義誠実の原則に反するものである。」と主張するが、被告が、本件貸付の事実を知らなかったとしても、被告に対し本件保証契約上の責任を求めることはなんら信義誠実の原則に反しない。

4  抗弁4(免除)について

証人洞沢岩雄の証言によれば、原告が、松建住宅に対し、本件債務を免除したことはないことが認められ、証人中屋安男の証言中これに反する部分は措信できない(昭和六一年六月当時、原告は、松建住宅所有の不動産につき担保権を有していたから、右物件の処分以前に、原告が被告に対して本件債務を免除することはあり得ない。)。

5  抗弁5(時効消滅)について

再抗弁事実については、当事者間に争いがない。従って、本件貸金が時効により消滅したとする被告の主張は理由がない。

四  右事実によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松丸伸一郎)

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